舞い散る桜の名残を惜しむころに開催された、平成最後のフミコムcafe。
いつもより多くの方々にご参加いただきました。
会場となるC-baseには大きなゴザをご用意しました。藺草(いぐさ)がほんのり香ります。みなさんに床面にお坐りいただいたからでしょうか、下町のようなリラックスした雰囲気が、会場を包みました。
この日のテーマは「健康」です。
ゲストは孫大輔さん。家庭医、そして東京大学医学部講師で、「まちけん」(谷根千まちばの健康プロジェクト)代表でもあります。
そんな孫さんが映画監督として世に出したショートフィルム『下街ろまん』の鑑賞から、フミコムcafeはスタートしました。
映画『下街ろまん』は、このような物語です。
主人公はこころの病を患った一人の青年。彼が住んでいる地域は谷根千(台東区谷中、文京区根津、文京区千駄木のエリア)あたり。あてどなく路地をさまよううち、青年は小さなカフェで働くイラストレーター志望の女性と出会います。
女性に案内されて入った古民家をそのまま利用した居酒屋で、青年は前に銭湯で倒れたとき介抱してくれたまちの人々と再会し、楽しい時間を過ごします。
映画の冒頭では思索にふけり口を固く閉ざしていた主人公も、まちの人々との交流が進むうち、やがて表情に笑顔が見えるようになってきます。
しかし青年が健康を回復するかに見えたのも束の間、突然、女性がカフェから姿を消してしまうのです……。
映画上映後、孫さんに製作の背景となったエピソードの数々をお話しいただきました。
ゲスト・インタビュアーは、マーケティング&クリエイティブプランナーの宮原契子さん。この映画では脚本に参加されています。
そもそも、なぜ医師である孫さんが映画を撮ろうとしたのでしょうか。
宮原さんの問いかけに、孫さんは「もともと医者にも映画監督にもなりたかったんですよ」と答えます。
この映画の製作自体、まちの健康を考えるまちけん「映画部」の活動の一環でもあった、と付け加えられました。
孫さんは映画芸術への憧れとともに、谷根千というまち自体にも魅力を感じていたとのこと。そのため、映画づくりは「まちの人たちを巻き込んでいくように」進行していき、ロケーションはじめ、さまざまな分野で協力をいただいたそうです。
つながりが健康には不可欠だと説く架空の作品世界を製作する、現実の世界でもつながりが生まれたことになります。
孫さんは、こころの病を患う主人公を「ほとんどぼくみたいなものだ」と語りました。
そして「こころの病は、薬だけでは本当には治らない」とも。
薬もさることながら、人とのつながりもまた、こころの健康のための大切な要素のひとつだということです。
ゲストトークの終盤、孫さんが携わっている「みんくるカフェ」という活動のご説明もありました。
数人がカフェのテーブルでテーマを決めて語り合い、議論を共有します。カフェでの対話はおたがいのつながりを生み出し、こころの健康をもたらします。
みんくるカフェは現在、日本中で活発に行われているそうです。
まちけんはまちへとつながりを広げていくもので、みんくるカフェはつながりを深めていくもの。
方向性は異なりますが、健康というゴールは共通しています。
交流タイムでは活発な意見交換がおこなわれました。
再開発によりコミュニティがばらばらになる状況では「まちは人を健康にするばかりではなく、不健康にすることもあるのでは?」という意見も出ました。
まちがせっかく構築されていた人のつながりを破壊し、人々を不健康にしてしまう……。
重要な問題提起に、議論はさらに深まっていきました。
参加者の方々の数多くは、ゲストのお話からヒントを得て、人同士のつながりと健康の関係、健康におけるまちの重要性を実感したようです。
みなさんには、アンケートにコメントをいただきました。いくつかご紹介します。
○アンケートのコメント
・人が健康になるカギはまちの中の人のつながりなのだと感じた
・自分がここちよいと思える居場所にゆるく、つながりたいですね
・映画に描かれた何気ない雰囲気の会話や街の様子に、自分自身が癒されました
・フミコムcafeのような、共通のテーマに関心のあるさまざまなバックグラウンドをもつ人が集まる場所とつながっていたい
・みんくるカフェやまちけんのことをもっと知りたいと思います
アンケート回収後も談論風発、対話しあう参加者のみなさんの輪が広がりました。
こういったつながりから生み出されるものが、地域に還元されていくことを期待しつつ、イベントは終了となりました。
なお、フミコム内では今、この日のイベントのグラフィックレコーディングや、みんくるカフェやまちけんについての展示を実施しています。
お近くに来られた際には、どうぞお立ち寄りください。
フミコムではこれからも地域の課題を知るはじめの一歩、新たなつながりを創るきっかけの場として、フミコムcafeを開催していきます。
これまでご参加いただいたことがある方はもちろん、二の足を踏んでおられる方にもどうか踏み込んでいただきたく、ご参加を心よりお待ちしております。