●ひきこもりとは
そもそもひきこもりの定義とは何かというと、家族以外との接点がなく、自宅(自身の部屋)に6ヵ月以上ひきこもっている状態をいいます。2018年の内閣府の調査によると約116万人の方がひきこもり状態にあると言われているそうです。
ただ、ひきこもり状態の方にもいろいろな状態の方がいて、本当に家から一歩も出られない方はそこまで多くはなく、近くのコンビニに行ったり、お休みの日は趣味で外出したりする方も少なくないのです。
●ひきこもりに至る要因
ひきこもりに至る要因は、人それぞれです。退職・人間関係・病気・職場に馴染めないなど、いろいろなパターンがあります。
ただ、それに隠れている要因として、発達障害や精神疾患などが原因になっていることも多いのだそうです。ただ、本当にひきこもりになる要因は人それぞれだけれど、一度ひきこもり状態になってしまうと、なかなか自分で抜け出すのが困難であると山田さんは言います。
●ひきこもり当事者が一般就労するまで
ひきこもり当事者が一般就労するまでには、いくつかのハードルを越える必要があります。
まずは、外に出ること。そして、そこから行政の窓口に相談に行ったり、就労移行ボランティアを行ったりして、一般就労までつながります。
ただ、就労ができたとしても、職場に馴染めない場合は、再び、ひきこもり状態になってしまうこともあるのだそうです。特にひきこもり状態が長かった方は就職活動をしても、なかなか就労までたどり着けず、挫折してしまう方も多いといいます。
そのため、一般就労まで、いくつものハードルを乗り越える必要があり、長い時間と多大な労力が必要になるのです。
●当事者の声
山田さんは、ひきこもり当事者の方と関わっていくなかで、「生きている価値がないから早く死にたい」「安楽死を認める法律を早くつくってほしい」「生きていることも大変だし死ぬこともできないから、大麻解禁、麻薬を合法化してほしい」といった切実な声を聞いてきたと言います。
こうした声をそのままに、この問題を放置すると、自殺者、孤独死の増加、社会保障費の増加、社会的な事件の増加につながる可能性もあるといいます。今、身の周りにひきこもりの方がいないとしても、いずれは自分たちに関わってくる問題になると山田さんは言います。
●そもそもなぜ、このような生きづらい社会になっているのか。
それは1980年代から進められた政策「新自由主義」にあるといいます。これは「市場の原理に任せて、国が余計なことをする必要はない」「社会福祉などは小さくして、自分たちの努力で何とかせよ」という考え方です。当時、アメリカやイギリスは経済がなかなか成長せずに困っていました。これはその時に考えられた政策で、日本もこの考え方を取り入れたのです。
具体的には「規制緩和」「経済のグローバル化」「歳出削減」が新自由主義の具体的な政策の内容ですが、これを進めたことにより、いろいろな問題が出てきました。
新自由主義のメリットは世界での貧困率の減少、ただデメリットはごく一部の勝ち組と大多数の負け組で構成される社会…。つまり格差が拡大した社会になりました。
なぜこの格差が広がったという問題が、ひきこもりや生きづらさにつながったかというと…
要因は3つ挙げられます。
①自己責任の強要
経済的に成功した方は、今の結果は自身の努力によってもたらされた。今の現状が悪い人は、努力をしなかったための自己責任だという考えです。
新自由主義は、こうした考えを押し付ける要素が強いため、生きづらさを生んでいるのではないかと山田さんは言います。今の現状が悪いのは本当に自己責任なのでしょうか。自己責任ではなく、生まれ育ってきた環境や、与えられてきた機会の数など、運の要素もあるのではないか。
努力ではどうしようもないこともあるのではないかと山田さんは言います。
②共同体の崩壊
核家族化、非正規雇用、福祉のサービス化により、本来、親戚、職場、地域のなかで長期的に人とつながることができていたものが、どんどんビジネス化され、人とのつながりが感じられないようになりました。
③社会的孤立
新自由主義になって、どんどんテクノロジーが発展しました。経済も、とても効率化しています。その反面で、自分じゃなくてもできる仕事が増えてきました。そうすると人は社会的な役割を失い、失業にもつながってきたのです。
また、今求められている仕事は、コミュニケーション力が求められる仕事も多く、それが難しいとなると、孤立につながってしまうのです。
ひきこもりになる要因は、さまざまあって、貧困、いじめ、人間関係などが挙げられるけれど、注目するところはそこではなくて、昔はそういう状態であったとしても、誰かにつながって、いじめを解決できたり、人と相談できていたところが、今は自分で抱え込まなくてはいけない。さらに自己責任を強要してくるので、なかなか人に相談できない状態になっていると山田さんは言います。
●ひきこもりを対象にした事業をはじめたきっかけ
小中学校の同級生が、ひきこもりになったことがきっかけで、ひきこもりに興味を持ち始めたのだそうです。
山田さん自身、今までは社会の負の部分を見てこなかった。高校・大学・社会人と進むなかで、ある一定の階層の人としか付き合ってこなかったといいます。
一定の階層とは親がいて、大学まで教育を受けられて、わりと恵まれた環境の人としか出会ってこなかったということです。でも実はそれは怖いことで、ずっとその世界にいるとそれが普通になってしまうのです。と山田さんは言います。
そのため、こうした思いや経験もあり、ひきこもりに携わりたいと思って、この事業を始めたのだそうです。
●ひきこもっていても仕事ができる・つながれる
ひきこもり当事者へのアプローチ方法をよく聞かれるという山田さん。
従来のアウトリーチ(訪問支援)では、当事者になかなかアクセスできなかったり、コミュニケーションが取れない、時間がかかるなどの問題があります。
そこでCOMOLYでは、さまざまなコンテンツを駆使したアプローチをしているといいます。Twitter、Facebook、YouTubeなど、当事者が興味を持ちやすいコンテンツを使用して、アカウントをフォローしてもらうことで、情報提供にもつながり、登録につなげることができるそうです。現在の登録者数は310名で、年齢、性別、ひきこもり年数や住んでいる地域もさまざまだそうです。
在宅ワークで必要なスキルを学べるセミナーやトレーニング、オンライン当事者会や当事者同士でつながれるサークルなどもあるとのこと。
今後は遠隔操作やVRを駆使した在宅ワークも行っていきたいとのことです。
ただ、オンラインだけだと限界があったり、当事者とのコミュニケーションがうまくいかず、退会してしまったり、登録していただいても、なかなかよいコンテンツが提供できないないなど、まだまだ課題はあると山田さんは言います。
●COMOLYが目指す社会
COMOLYの役割としては、ひきこもりに対する理解を世間に広め、さまざまな機会をいただけるように動いていくことがミッションだと山田さんは言います。
なぜならば、ひきこもりに対する理解がまだまだ認知されていない。ひきこもりは「甘えだ」と考えている人が多いからだそうです。
そのため、今後は仕事をする機会、トレーニングをする機会、人と繋がる機会を増やしていきたいのだそう。ただ、これはCOMOLYだけでは難しく、企業や行政、NPOとの連携が必要になってくるので、いろいろなところと協力しながら進めていきたいと言います。
また共同体を再構築することに力を入れていきたいのだそうです。
空き家を活用した多世代型の共生シェアハウスが、できないかなと考えているそうです。
そして最後に、ひとりひとりが社会の中で役割があり、生きる意味を見出せる社会にしていきたい。「もう死にたい」や「薬物の使用を認めてほしい」と思っている方に、生きる意味を見出せるような社会をつくっていきたいとお話してくださいました。
●参加者からの質問
講座の後半は、参加者から寄せられた質問や意見に答えていただきました。
今回は、ひきこもり状態にある方も含め地域のさまざまの方が居場所や役割を持って活動できる居場所づくりに取り組む、さきちゃんち運営委員会の亀山さんにも感想を伺いながらの質問タイムとなりました。その一部をご紹介します。
*ワークスペースさきちゃんち:
https://sakichanchi.org/?page_id=1918
・COMOLYさんの収益はどこから得ているのですか?
⇒(山田さん)当事者からお金をいただくのではなく、仕事を提供してくださる側からの財源が主になっています。
基本的に収益に関しては、在宅ワークから得ています。企業などから在宅でできる仕事をもらい、30%がCOMOLYの収益になり、70%が登録者の収益になります。
ただ、どれくらいCOMOLYが関わるかにもよるため、基本的には20~30%がCOMOLYの収益になります。案件によっては、赤字になってしまうこともあります。
・新自由主義ではない適切な相手として、どこと連携をしていますか?
⇒(山田さん)組む相手は、NPOや社団法人、行政が多いです。
・関東圏の登録者が多いように見受けられましたが、情報収集にも地域差はありますか?
⇒(山田さん)関東が多いのは事実です。ただ、SNSなどでも発信はしているので、最近登録される方は、北海道や大阪など、場所は関係なく登録してくれています。
本編は以上となります。
今の時代、良くも悪くも、自分の代わりはいくらでもいると感じることは多いですし、自分の価値を探すのって難しいですよね。
でも自分にしかできないこと、自分の得意を活かせる場所はきっとあると思うので、ゆっくりでいいからそれを見つけられて、誰もが役割を持って、自信を持って活躍できる社会にしたいですね。
●ご視聴いただいたみなさまからの感想
イベント終了後、ご視聴いただいた多くの方にアンケートにおこたえいただきましたので、一部ご紹介します。
・ネットを使って仕事をすることで、社会へ出るきっかけになる。
・「ひきこもり」について問題認識はありましたが、実際に支援を行っている企業があることを初めて知ることができました。
・支援の入り口が多いことは、困っているご本人の利益につながること、ということがとても勉強になりました。
・COMOLYさんの活動は以前から応援させて頂いていますが、就労や収入よりもまずは「つながる」ことの価値を家族会の親御さんに特にお伝えしたいと思いました。
・ひきこもりに理解のある人がいて、ひきこもっていても働くことが出来ることを伝えたいです。
次回のフミコムcafeは2021年11月20日(土)
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