●子どもに必要なのはチャリティではなくエンパワーメント
大学の時にユニセフのチャリティボランティアを始め、その後ユニセフ協会に入った甲斐田さん。当時はユニセフの作るビデオにもチャリティが強調されているものが多く、これは単にかわいそうな人というイメージを埋めつけるだけなのでは?と疑問に思っていたそう。
そのようなことを考えながら活動している時に、「子どもの権利」に出会いました。子どもの権利を子ども自身が知ることで、貧困や人権抑圧など過酷な状況に自分が置かれていることに対して、「何とかして」と誰かに訴えることができると甲斐田さんは言います。
ユニセフ協会で勤務した後、イギリスの大学院に進み、そこで子どもに関する本を翻訳しながら学びを深めました。その後ブータン、インド、カンボジア、タイなどさまざまな国に滞在します。そこで「子どものために」ではなく「子どもと共に」という考えで、子どもの権利に関する活動に取組んでいる人たちにたくさん出会ったそうです。こういった考え方を日本でもぜひ取り入れたいと考えた甲斐田さんは、国際子ども権利センターシーライツで活動を開始し、また文京学院大学で教員となります。子どもをエンパワーすることで、子どもが直面する問題を解決してほしいし、大人もその責任を果たすべきという考えで活動をしているそうです。
●子どもにやさしいまちとは
まずはじめに「子どもにやさしいまち」と聞いて、皆さんは何をイメージしますか?
と甲斐田さんから問いかけがありました。
その問いに対して参加者からは以下のような意見があがりました。
・安心して居られる場のあるまち
・こどもの意見が聞かれるまち
・子どもが自立して生きられる、教育が受けられるまち
どの意見もその通りですね、と甲斐田さん。
それを踏まえ、「子どもにやさしいまち」とはどのようなまちか、日本ユニセフ協会のCFCI(Child Friendly Cities Initiative)で定義されているものをお話くださいました。
(一部抜粋してご紹介します。)
・子どもたちが望むまちのあり方について意見を言うことができる
・教育や保健、安全な水、トイレにアクセスすることができる
・まちを安全に歩くことができる
など、「子どもにやさしいまち」とは、子どもの権利を守るために積極的に取組むまちとのこと。子どもの権利条約の4つの原則と併せて9つの定義をご紹介いただきました。
※より詳しい内容は、公益財団法人日本ユニセフ協会のCFCIポータルサイトに掲載されています。
*公益財団法人日本ユニセフ協会のHP:https://www.unicef.or.jp/cfc/
*公益財団法人日本ユニセフ協会 CFCIポータルサイト:https://childfriendlycities.org/
●「子どもの権利条約」の子どものとらえ方
子どもは、ただの保護の対象ではなく、権利を持ってそれを行使することができる主体だと甲斐田さんは言います。
しかし、日本はこのような考えが広まっておらず、日本政府や多くの大人が、子どもに権利を教えると「わがまま」になると誤解しているとのこと。
ただ甲斐田さん自身は、お孫さんの様子を見ていて、子どもに選択をする機会を与えることで、「考える力」「選択する力」が養われていくということを日々感じているそうです。
また、子どもの権利については、自治体によっても理解の格差が大きいと言います。
子どもの権利をベースにした条例を定めている自治体もありますが、実際は子どもを権利の主体として捉えていない自治体が多いため、子どもの参加の権利が子どもに伝わることがないと言います。
●子どもの権利が保障される社会とは
差別されたり、世界から見えない存在とされている子どもたちが、声を上げ、当たり前の権利を主張することができる。そして、それが受け入れられる社会にすることが子どもの権利を保障するということだと甲斐田さんは言います。
子どもが自分の権利が保障されていない(例えば貧困、差別されている)と感じたときに、権利を知らなかったら「こういう環境に生まれたから仕方ない」と思って我慢してしまいます。
また不条理なことをされたときに、それが権利侵害だと気づけません。
しかし、権利を知ることで、「これっておかしいよね」と声をあげることができます。
自分たちの社会のことを自分たちで決めていく。子どもの声が社会を変える。と甲斐田さんはお話されていました。
●海外における「こどもにやさしいまちづくり」事例
海外では、「こどもにやさしいまちづくり」として、どのような取り組みがされているのか、ネパール、フィリピン、カンボジアの取り組みをご紹介くださいました。
①ネパール
・子ども自身が児童婚をなくす活動をしている。
・NGOと地方行政の連携
例えば、首都カトマンズのある市では、NGOと市の職員が連携し、子どもの権利を守る委員会をつくって、児童労働がないか見回りをしている。
②フィリピン
・自治体レベルで子どもの参加が進んでいる。
・フィリピンの中でも、ミンダナオ島のなかには、子どもの権利のネットワークがあり、そこが中心となり、こどもにやさしいまちづくりを進めている。
③インドネシア
・国レベルで「子どもにやさしいまちづくり」を推進している。
・「女性エンパワーメント・子ども保護省」という省があり、そこが中心となって、全ての省庁と連携しながら、子どもにやさしいまちづくりを行っている。
●海外でのシーライツの活動~カンボジアを例にあげて~
カンボジアでは、子どもに対して、あらゆる暴力があるとのこと。特に刑務所では、大人も子どもも同じ場所に収容されるため、子どもたちは、大人から、身体的・性的暴力を受けています。
そのため、法に触れた子どもたち(例えば近所で飼われていた牛を盗んでしまった)は、大人と同じ刑務所に入れるのではなく、社会貢献を通じて、やり直しのチャンスを与えられるような、まちづくりが大切だと甲斐田さんは言います。
またスヴァイリエン州のタナオコミューンという村では、人身売買が多いとのこと。そのようななかで、子どもたちが暴力にあわないように、子どもや親たちに向けて子どもの権利や児童労働、人身売買の啓発活動をしたり、子どもたちの学びを支える居場所づくり(例えば図書室やコンピューター室など)、また子どもとおとなの対話の場づくりを行っているそうです。
●日本におけるシーライツの活動
SDGsでは「誰ひとり取り残さない」を目標としていますが、日本でも、まだまだ取り残されている子どもたちが多くいると言います。そこでシーライツでは、多様な背景をもつ子どもたちの声を聴くプロジェクトを開始しました。特にLGBTQの子ども、外国ルーツの子ども、不登校の子どもに焦点を当て、それぞれの課題ごとにワークショップを実施し、子どもたちの声を聴いたそうです。
ワークショップに参加した子どもや若者たちからは、「子どもの権利について、学校で教えるべきだと思った」や「もっと子どもの時に知りたかった」という意見が出たとのこと。
子どものたちの声を聴くと本当にその通りだと思える声が多くあるので、こうして子どもたちから出る意見をいかに聴いていけるかということが大事になると甲斐田さんはお話されていました。
●今後の目指すところ
日本社会全体の課題として、そもそも日本では、「子どもの貧困率の高さ」「子どもの自殺率の高さ」「性的虐待・搾取に遭う子どもの割合の高さ」などが挙げられるにも関わらず、その当事者の子どもたちがなかなか声に出せない状況があります。
それは何故かというと、言える相手や相談できる大人がいないから、また、そういう場がないからだと甲斐田さんは言います。
子どもたちが安心して意見を言える場所、また子どもの声に耳を傾けられる大人を育成することが大切であり、子どもにやさしいまちづくりに繋がります。
子どもの権利条約をツール(よりどころ)にして、子ども誰ひとり置き去りにされない社会になってほしいと甲斐田さんはお話されていました。
●参加者からの質問
講座の後半は、参加者から寄せられた質問や意見に答えていただきました。
その一部をご紹介します。
・日本は今、男女平等の社会を目指しています。でも、もし女性にやさしい社会をつくりますと言った場合、「やさしい」ではなく「差別をなくすべき」という声があがると思います。
⇒(甲斐田さん)その通りだと思う。わたし自身も子どもにやさしいまちづくりと聴いたときは、ピンとこなかった。でも女性差別という言葉はよく聞いても、子ども差別という言葉はあまり聞かない。実はわたしたちは知らず知らずのうちにたくさんの場面で子どもを差別している。差別を伝わりやすい言葉で表現して「やさしいまちづくり」としている。
・子どもの権利をテーマにした映画などがあれば教えてください。
⇒映画ではないけれど、プラン・インターナショナルでは、女の子自身が性暴力を受けないまちにするためにはどうしたらよいかという動画をアップしている。日本でも参考になるのではないかなと思います。
本編は以上となります。
今回の甲斐田さんのお話から、子どもたちに「困っていることがあったら声をあげていいんだよ」と伝えること、そして、"子どもだから"と諦めてしまうことなく「そういうことも言っていいんだ」と思えるような環境をつくっていくことが必要だと感じました。
何か困った時に相談できる、そして信頼できる大人が身近にいる環境をつくっていきたいですね。
●今回のお話に出てきた団体のリンク先をご紹介します。
*認定 NPO 法人 国際子ども権利センター C-rights :http://www.c-rights.org/
団体では現在活動を一緒に進め、広げていくボランティアを募集しているとのことです。
また、子どもの権利に関する学びの場としてオンラインで「チャイルドライツ・カフェ」も開催。
盛りだくさんの情報が団体ホームページでご覧いただけます。
*公益財団法人プラン・インターナショナル:https://www.plan-international.jp/
●ご視聴いただいたみなさまからの感想
イベント終了後、ご視聴いただいた多くの方にアンケートにおこたえいただきましたので、一部ご紹介します。
・子ども自身が権利を知ることの大切さを感じた。
・子どもと大人はパートナーという意識を地域で共有することの大切さを感じた。
・「女性差別」とはいうけれど、「子ども差別」という言葉がないことに、どきりとしました。いままであまり子どもの権利という視点で考えたことがなく、また学校や職場でも議論したことがなかったので、改めて子どもの権利というものを考える必要があると思いました。
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