●原点は総合病院のICU勤務。その後訪問看護へ
学校卒業後、総合病院のICUにて、5年間看護師を経験したことが、全ての出発点。
ICUにいる時に運ばれてくる患者さんは、このまま延命治療をしても、今まで通りの状態に戻るのは難しいだろうという方が多くいらっしゃいました。しかし、患者さんは既に意識がないことがほとんどで、ご本人の希望は聞くことができず…、でもご家族が希望する限り延命治療をしなくてはいけないという状況に歯がゆさを感じていたと前田さんは言います。
どうすればこのような患者さんは救われるのか、望まない治療を減らすには、意思決定のなかでどのようなサポートが必要かを考えました。そのなかで入院や大事になる前に、患者さんと一緒に人生会議のできる訪問看護で働きたいという想いにたどり着いたそうです。
周囲からの反対もあったそうですが、5年間勤めた総合病院を辞めて訪問看護へ転職をすることを決めました。
●起業のきっかけ
延命を止めるのが終活であり、人生会議だと考えていた前田さんですが、あることがきっかけで、人生会議についての考えが変わりました。
それは義理のお母さまが、末期がんになってしまったことです。
ベッドから起き上がれない状態になったお母さまのために、天井に家族の写真を映してスライドショーにしていたそう。そんなお母さまにもっと生きがいになることはないか、目標を何か作った方が元気になれるのではないかと考えた前田さん。当時はまだお付き合い中だった奥さまにプロポーズをし、家族でフォトウェディングを撮ることをプレゼントしました。これをしたことで、お母さまの目標もでき、家族の中でも、辛そうなお母さまではなく、写真の中の笑顔のお母さまが記憶に残ったと前田さんは言います。
この経験から感じた事は、横に看護師が居てくれたら、患者さまもご家族も安心して、やりたいことが出来るのではないかということ。これを仕事にしたいと考えた前田さんは訪問看護の現場を離れ、「株式会社ハレ」を設立。奥さまと一緒に、かなえるナースの事業を開始ししました。
●かなえるナースは、どのようなサービス?
どういった事業かをざっくり言うと、自費の訪問看護みたいなものです。と前田さんは言います。基本的には何でもあり。外に行くのもあり、自宅で何かサポートをするのもあり。
普通の訪問看護だったら、健康保険の制約上、「患者さんのお手伝いします」「先生から指示されている点滴を打ちます」以上。となってしまうところですが、かなえるナースのサービスでは、「記念写真撮ります」「結婚式の正装できます」「食べたいものがあるならシェフ呼びます」など、いろいろな可能性を取り入れることができるとのこと。これだけ幅広いサポートを提供できるのは、健康保険の適用ではないからこそだと言います。保険適用にしないと患者さんの負担が増えるのでは?と思う方も多いと思いますが、健康保険には限界があります。訪問看護であれば、外出や長時間の利用には対応できません。自宅で現状維持のケアをするには長けているけれど、”それ以上の望み”には対応できなくなってしまうのです。
この”それ以上の望み”の部分を叶えられるのが、この事業だと言います。
●実際どのような場面で使われているのか。~事例を交えてご紹介~
実際に患者さまが利用されている様子をお写真や動画を交えてご紹介いただきました。
まず1人目は株式会社ハレのホームページにも掲載されている方の事例です。
この方は、末期がんを患っていたそうですが、「娘さんの結婚式で一緒にバージンロードを歩きたい」というご希望から、かなえるナースのサービスを利用されたそうです。入院先から式場まで同行し、サポートを受けながら1、2時間ほど式場で過ごしたとのこと。
2人目の方は、がんの末期でご自身の寿命がわかっていたため、思い出の温泉へ行きたいというご依頼。看護師さんのサポートを受けながら、露天風呂に入ったり、旅館のお食事も食べて、旅行を楽しんでいる様子が動画からも伝わりました。
この他にも、3名の事例をご紹介いただき、患者さんやそのご家族が、それぞれ様々な思いをもって、このサービスを利用されているのだなと感じました。
●連携先は同業種だけではなく…
最近では、ご自宅での結婚式をプロデュースしたとのこと。
コロナ禍で結婚式が、中止、延期となっている状況だけれど、病気の進行状況によっては開催を待っていられない方もいらっしゃいます。そのような方たちのために、自宅での結婚式を企画したそう。SNSを通じて「自宅で結婚式を叶えてあげたいです」と公表したら、顔も知らぬ人たちから、「ブーケ作れます!」「着付けやります!」「ヘアメイクやります!」とリプライを貰ったそう。色々な業種の方たちが手をあげて、サポートしてくれたそうです。こういう多職種連携もありだなと感じたとお話されていました。
●活動への想い
どうしても病気になると、いろいろな事を諦めがちになります。どんどん弱気になって、最後病院の天井を見ているだけという状態になってしまう方も多いと思います。
でも、やりたいことや叶えたい目標のある過ごし方だったら、最期ギリギリまで楽しめる。
「最期の日まで、生きがいをもって楽しんでほしいという思いから、こういった事業をしている。」とお話されていました。
●参加者からの質問
講座の後半は、参加者から寄せられた質問に答えていただきました。
オンラインということもあり、全国各地のさまざまな地域からご質問が寄せられました。
また救急病院の医師の方や、訪問看護の看護師さん、行政や訪問診療のソーシャルワーカーさんなど、実際に医療や福祉の現場で働かれている方からのご質問も多数いただきました。
その一部をご紹介します。
・このサービスは皆さんどういう形で、ご利用につながるケースが多いですか?
⇒(前田さん)基本的には医療従事者さんの紹介でつながるケースが多いです。本人たちがいきなり探すというよりは、その患者さんが利用している病院や訪問看護師さんからの紹介でつながっています 。
・医療連携の具体的な方法は?例えば旅行先での急変時の対応など。
⇒(前田さん)お医者さんの指示を絶対にもらいます。緊急時はどういう風に対応するかを明確にし、病院、施設、往診の方と相談もして、薬も持っていきます。またお医者さまが書いてくれた診療情報提供書も極力持って行き、どのような目的で今回旅行に来ているのかを説明したうえで、いざという時は、安らかに見送ることを主治医もご家族も含めて期待されていることを説明して対応します。
・今回ご紹介頂いた事例は、大人の方の事例が多かったですが、お子様の場合は?
⇒(前田さん)お子様の実績はまだないですが、0歳から受け付けています。お子様はボランティア団体(例:メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパン)などを利用される方が多く、医療従事者の中でも、それが根付いているため、そういったボランティア団体に依頼することが多くなってしまいます。しかし、かなえるナースでも、お子様の希望があれば応えます。
本編は以上となりますが、終了後も追加で感想や質問にこたえていただき、今回のテーマに対する参加者の関心の高さが伺えました。
●ご視聴いただいたみなさまからの感想
終了後、ご視聴いただいた多くの方にアンケートにお答えいただきましたので、一部ご紹介します。
・前田さんの取り組みは素晴らしいと思います。司会者さんが言っていた、好きなように生きて70代で死ぬのと、節制して我慢して90まで生きるのだったら、好きなことして死にたい、という考えに私は共感します。「人生会議」まずは自分自身でやってみます。
・人生最後の時間をどう過ごすのかは本人だけでなく、家族にも大切なことであると思います。
思い出として残ることは、残された家族にとってもこれからを過ごすうえで励みになります。
・制度にとらわれずに支援を届けることの大切さを学びました。
ささやかなことでも大切に思っていること、もの、価値観をできるだけ多く周囲と分かち合いながらすごしたいです。
●本日のお話に出てきた団体のリンク先をご紹介します。
*株式会社ハレ かなえるナース :https://ha-re.co.jp/company/
*公益財団法人 メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパン :https://www.mawj.org/
そして、今回もグラフィックレコーディングに挑戦してくださいました!
わかりやすく素敵なグラレコをありがとうございました!
もしもの時、自分がどうありたいかという考えは、年を重ね、身のまわりの環境が変化していくごとに変わるのかもしれません。普段から少しづつ、まわりの方たちと話し合ってみるのもいいかもしれませんね!
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