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活動報告・発行広報物

【開催報告】第60回フミコムcafe オンライン すぐそばにある「貧困」 -「誰ひとりとり残さない社会」を実現するには-

地域連携ステーション フミコム
  • 文京区全域
  • 福祉・健康(高齢者/障害者/その他)
  • 国際・人権・男女共同
  • 職業・暮らし
日時:2021年3月17日(水)19:00〜20:30
会場:オンラインにて開催
ゲスト:大西 連さん(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長)
最大視聴者数:150名(*zoom参加者、YouTube LIVE配信視聴者の総数)

今回のフミコムcafeは、長年ホームレス状態の方など生活困窮者の相談支援や、そこから見えてくる課題について政策提言を行っている大西連さんをゲストに迎え、お話を伺いました。

なんと、リアルタイムでの最大視聴者数が150名と、過去最高視聴者数となった今回のフミコムcafe。「貧困」というテーマに対してこれだけ関心が寄せられるのも、長引くコロナ禍で休業や離職を余儀なくされる方が急増し、もはや他人事ではない社会課題として顕在化してきたためかもしれません。

今回は、大西さん自身もこれまであまり語ったことがないという、現在の活動をはじめたきっかけについてじっくりお話いただいたあと、大西さんが理事を務める自立生活サポートセンター・もやいの活動内容やこの一年のコロナ禍で何が起きていたのかを振り返りながらお話いただきました。
●自立生活サポートセンター・もやいについて
日本の貧困・格差の問題に取り組む団体として、2001年に設立されました。
主に、生活困窮者への相談支援やホームレス状態の方のアパート入居時の連帯保証人引受、居場所づくりやコミュニティ作り、生活保護や社会保障制度の提言などを行っています。
基本的には都内近郊の方の相談にのることが多いそうですが、メールでの相談は全国から寄せられており、直接支援が難しい遠方の方等には、その地域の関係機関を紹介したりしているとのことです。(より詳しい内容は中盤の「もやいの活動について」をご覧ください)。
また、大西さんは政府のSDGs(※1)推進円卓会議構成員として、SDGsの17目標の1つ目でもある「貧困をなくそう」を目指し活動されています。

(※1)SDGsとは
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17の目標・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓っています。
(参考:外務省HP⇒https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
17の目標の1つ目が、「貧困をなくそう」。大西さんは、あらゆる社会課題の一丁目一番地は「貧困」であるが、日本の達成状況は先進国の中でもかなり低い方であると話されました。
●活動をはじめたきっかけ
2010年2月、友人から「炊き出しのボランティアに行ってきた」と話を聞いたことから始まります。そのボランティアとは、当時、新宿中央公園で毎週日曜日に野宿の方向けに行っていた炊き出し活動でした。
当時、現在の活動とは全く別の仕事に就き、「貧困」については2008年のリーマンショックの際に実施された「年越し派遣村」をテレビで知る程度だったいう大西さん。友人の話に興味がわき、社会科見学的に軽い気持ちで行ってみたそうです。
しかし、多くの方が炊き出しに並んでいるという、テレビ越しでは伝わらない現実を目の当たりにします。特に当時はSNSも今ほど普及しておらず、テレビ以外のメディアで知ることもなかったため、余計にインパクトが大きかったと言います。この肌感覚での体験から、日本の貧困の問題は深刻なのではないかと強く感じたそうです。
●炊き出しボランティアでの出来事
初めての炊き出しボランティアでカレーを渡している時のこと。あるホームレスの方と手が触れた際に、無意識に手を引っ込めてしまったという大西さん。その時に、自分は無意識にホームレスの方を差別していたのかと気づき、ものすごくモヤモヤしたと言います。
その経験を機に、このボランティアを「いいことした」で終わるのは違うと考えた大西さんは、その後も毎週参加するようになったそうです。

そうして毎週ボランティアに参加するうちに、炊き出しを利用する方から相談を受け、一緒に福祉事務所へ生活保護の相談に行く事に。しかし、当時の窓口での対応に、大西さんは愕然としました。
長きにわたりホームレス状態であるなかでは、「生活保護を利用しよう」と思えるまでには、一人一人がさまざまな理由で悩み・迷いを抱くと大西さんは言います。毎週300人近く炊き出しを利用する人がいて、どれだけの人が支援を使いたいと思っているか。それだけ、「支援を受ける」ということへのハードルが、この日本においてはとても高いものであると言えます。それでもようやく「支援を利用したい」と思い、そしてそれを大西さんに話すことができてやっと相談に来たというなかでの窓口での対応に、「これはおかしい」と感じたと言います。それから大西さんは、毎週のように福祉事務所に相談者と一緒に行くようになりました。
●東日本大震災を機に考えた、日本のセーフティーネット
この炊き出しのボランティアをきっかけに、その後もいくつかの団体でボランティアとして相談活動を行なっていた大西さんですが、ほぼ無給のボランティアを続けていこうか悩んでいました。その矢先、東日本大震災大震災が発生。震災を機に現在理事長をつとめるもやいに声をかけられ関わるようになり、震災発生の翌月に被災地をまわり、津波で家を失った方や生活再建が難しい方などの相談活動を行いました。

そして、この被災地での相談活動を通して、日本のセーフティーネットの現状に危機感を感じた大西さんは、この問題を自分の活動としてやっていこうと心に決めます。「役所が出す通知一本で、何万人・何十万人の人が助かることがたくさんある。実際の現場活動だけでなく、現場で起きていることを社会に届けていかなくてはいけない。震災を機に、社会全体を変えていくことが大切と感じた。」と話されました。
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●もやいの活動について
こうしてもやいのスタッフとして活動を続け、現在は理事長をつとめる大西さん。
ここからはもやいの活動について紹介していただきました。

もやい設立の2001年当初は、ホームレス状態の方のアパート入居時の「連帯保証人」を提供する事業から始まりました。この20年の間に、緊急連絡先とあわせて約3000世帯に提供してきましたが、ホームレスの方に限らず、DV被害者や児童養護施設出身の方、外国人の方、精神障害をお持ちの方など、いわゆる社会的に「マイノリティ」と言われる方が多いとのこと。
このように外部に保証人を頼まないといけないくらい、何らかの理由で人間関係のつながりを失ってしまった方が多いことから、そのような方が地域のなかで孤立しないような「居場所づくり」を行っています。

その他、さまざまな生活相談にも対応し、平均で年間約4000件の相談があり、100件以上の同行支援を行っています。2006年頃からは「ワーキングプア」と呼ばれる方やネットカフェ難民からの生活相談が急増してきたとのことです。

そもそも「貧困」の定義について大西さんは、単に経済的に困窮していることだけが貧困ではなく、それに加えて人間関係で孤立している”社会的孤立状態にあること”が「貧困」であると言います。そのような貧困問題に対してさまざまな活動を行うもやいですが、大西さんは「『もやいが解散できるような社会』にしなければならない」と話します。社会の中での仕組みづくり、つまり”公助”を充実させていくことが必要であり、だからこそ実際の相談の現場で活動をしながら、「現場の声を届ける」ための政策提言を続けていると言います。
●コロナがもたらした影響
ここからはコロナ禍での現状についてお話いただきました。
やはりコロナの影響は大きく、2020年2月終わり~3月にかけてイベントの自粛等が示された頃から相談が急増し、相談件数は昨年の1.5倍以上に。これまであまり相談がなかった業種の方からの相談が来るようになったとのこと。また、直接面談での相談だけでなくメールや電話での相談や遠方からの相談も増えているそうです。
4月には、毎週土曜日に相談会にプラスして食料品配布を実施。実施にあたり医師の指示のもと感染予防対策を徹底したり、相談会には法律や労働系に詳しい専門職にも参加してもらったり、食料は他団体の協力を得て配布するなど、多くの方と連携しながら活動を継続してきたそうです。その他にも保証人引受世帯への食料配布や、野宿者支援団体や外国人支援団体へのお米等の支援物資の提供など、多岐にわたり活動されてきました。
大西さんは、この一年活動するなかで、すぐに支援につながる方ばかりではないものの、そうした関係性づくりができていると感じているそうです。
●コロナ禍での課題感①~住まいの問題~
大西さんは、コロナ禍において住まいがない方の状況は深刻であり、まだまだ課題があると話されました。例えば、コロナの感染リスクもある中で集団の施設に入所させるなど、これまでもあった住まいがない方に対する人権的な課題が、コロナによってある意味で顕著になったと言います。
コロナ後は脱施設化を目指し、アパート移行・維持の支援ができたらと考え、現在もやいでは9部屋のシェルターを運営しているそうです。あくまでも次のアパートに移るためのシェルターで3ヶ月程度の利用を想定しており、これを社会の仕組化・普遍的なセーフティーネットにすることが目的であると大西さんは言います。そのため、もやいだけで運用するのではなく、他団体と一緒にやっているものや休眠預金助成の一環としてやっているものもあるとのことです。
●コロナ禍での課題感②~長期化に伴うリスク~
大西さんいわく、コロナ禍においては、非正規雇用の方や若い方からの相談が圧倒的に多いとのことです。低収入の方や住み込みで働いていた方、もともとネットカフェ生活をしていた方などから多く相談が寄せられるそうです。しかしこうした相談も、これまでは景気に支えられていて表出していなかっただけであり、今回のコロナの影響により苦しい状況の人が増加していると言います。
では、生活保護の受給者数はどうかというと、2020年3月~12月で5417世帯しか増えていないとのこと。一方で、特例貸付の新規申請件数は約161万件で、雇用調整助成金は約282万件にも及びます。

コロナが長期化することで、
・正規の人の失業リスク、非正規の人のダメージ拡大
・貸付による債務がかさみ、生活再建しない人が増える
・住まいを失う人が増える
・子育て世帯に深刻なダメージ、進学・就学に影響
・生活保護利用者が増加、要保護者が生活保護申請を躊躇う
…などのリスクがますます高まり、増え続けていくだろうと大西さんは危惧します。

こうした社会状況のなかでは、目に見えていないだけで困っている人は身近にいるのではないか、今私たちにできることは何かをみなさんと一緒に考えたい、と大西さんは話されました。
●参加者からの質問
ここからの後半では、大西さんに参加者から寄せられた質問や感想にこたえていただきました。今回zoomとYouTube Live合わせて100人以上の方にご視聴いただきましたが、その中には行政の生活保護担当部署でケースワーカーとして働いていた方もいらっしゃるなど、実際の現場のリアルな声を知ることもできました。

<参加者からの質問や感想>
・もやいのように、すばやく決定する組織の工夫は?
⇒(大西さん)メンバーみんなが自分はどういう役割で、今の状況下で自分は何をしたらいいかを、常に考えて動いてくれている。一人で抱え込まず、基本はみんなで相談を受けて、みんなで悩んで、みんなで答えを出している。そうした現場にいるからこそ、どういう課題があるかがおのずと見えてくるので、政策提言をする時には、トップダウンのものではなく、現場でみんなが直面した課題からの提言をするようにしている。

・もやいに相談に来る方が、もやいの存在を知る方法や相談しようと思うきっかけは?
⇒(大西さん)SNSでもやいを知り相談に来る人が多い。コロナ関連で困ったという相談の場合は、自分でも色々やってみたけれど最後の一押しとして相談したい、という方が多い。もやいに相談に来る方のなかには、行政の窓口に行ってうまくいかなかったという方もいる。

・無理難題をケースワーカー一人が抱えがちなので、「いつでもウェルカム」という状態には正直なりにくいのが現状です。
⇒(大西さん)生活保護申請の行政の対応に対して、”水際作戦”と言われているところもあるが、もちろん改善した場所もあるし、頑張っている方もたくさんいる。ケースワーカー個人を責めるのではなく、一人あたりのケース数が多いということが課題であるが、ではなぜそこに人を増やすことができないのか、そもそもなぜ予算がつかないのかを考えていくと、施策を考える議員を選んでいるのは私たち一人ひとり。他人事の問題ではないと思う。

・生活保護の窓口においてはどうしても「不正受給を防がないといけない」という面で対応しているという現状がある。
⇒(大西さん)例えば生活保護に限らず給付金などにおいても、不正申請を防ぐために”その人が本当に受け取れる人なのかどうか”を、住所があるか等あらゆる角度から調査をする。つまり1000人に1人が嘘ついていたとしたら、その1人のために煩雑な仕組みになっていると言える。そのため、「まず不正を防がないといけない」「二重に取られないようにしないと」という気持ちから、どうしても疑いの目で見てしまうことにつながるのではとも思う。
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●私たちにできることとは?~「誰一人取り残さない社会」に向けて~
ここまでの大西さんのお話と参加者の方からの質問や感想を通して、現在の日本における”貧困”の現状を深く知ることができました。では、現状を知った今、私たちにできることは何でしょうか。

大西さんは、「半径10m以内でできることはたくさんある」と話します。「ボランティアでも、寄付でも、リツイートでも、できることはたくさんある。また、地域にはいろんな活動があり、そうした活動を通して社会で孤立している方など様々な方に出会うことができる。我慢してやるものではなく、自分に合った活動を模索してもいい。」と話されました。

そして最後に大西さんは、「いろんな困りごとが人生のなかにはある。誰かは乗り越えられたかもしれない社会問題を、乗り越えられない人もいる。どうしても人をカテゴライズしたりパターン化してしまいがちだが、『貧困』の背景は一人ひとり違い、困り感も違う。社会の見方を少し変えるだけで、社会の多層化がみえるようになる。そして身近な人や問題に目を向けられるようになると思う。」と話されました。
●終了後の質疑応答タイム
本編は以上ですが、終了後も参加者の方からの質問にこたえていただきました。その中には、「地域で満足に食事を取れていなさそうな子どもを見つけたが、どうしたらよいか」との質問が寄せられ、大西さんからのご紹介で急きょこたえてくださったのは、学校や社会に馴染めない若者支援を行うNPO法人サンカクシャ(※2)の代表の荒井さん。
荒井さんは、この質問について「その人が気楽に受け取れるような状態にできているといいのかな。支援を受け取る=重たい行為だと思うので、こちら側の重さが感じられないように、例えば『これ、落ちていましたよ』とさりげなく声をかけてみるとか。”結果”、支援を受けられるような状態がいいと思う」と話されました。
大西さんも、「入口の接点はさまざまなので、情報提供するだけでもいい。また、もやいやサンカクシャのような活動をしている団体や地域のつながりは意外とたくさんある、それを知るだけでもいい」と話されました。

この”支援臭”を消す、いかにも”施し”というわけではない関わり方から、私たちにもできることがあるのかもしれません。

(※2)NPO法人サンカクシャ
学校や社会に馴染めない15〜25歳ぐらいの若者が、社会で生きていくために、経験値を獲得できる機会を作る活動を行っている。人とつながり、自分を応援してくれる人と出会える「タマリバ」と何かにチャレンジするための「サンカク」の機会を作り出し、若者の経験値が上がるように応援している。
(団体HPはこちら
https://www.sankakusha.or.jp/
●ご視聴いただいたみなさまからの感想
終了後、ご視聴いただいた多くの方にアンケートにおこたえいただきましたので、一部ご紹介します。
・これまでなんとか保っていた社会の矛盾や問題点がコロナによって噴出してきているという状況がよく分かったと同時に、根本的な社会のあり方を変えていかないいけないと感じた。
・大学の授業で貧困について取り挙げられることもあるが、具体的にどのような問題が起こっているのかを現場の生の声を聞くことができた。
・コロナ禍で長引く業務の中で気づかないうちに相談者さんをカテゴライズして枠にハメようとしているのではないか等、振り返りの機会になったこと、一担当者であってもオーナーシップを持って発信することの大切さに気づかされて、すぐに職場で上司や同僚に伝えたところです。
・小さな声にもフラットに耳を傾けて、自分ができなくてもどこに繋げば誰と繋がれば道が開けるのかの視点で活動することにチャレンジしたいと思います。

そして、今回もお二人の方がグラフィックレコーディングに挑戦してくださいました!ありがとうございました!
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●参考HPなど
今回のお話と併せてぜひご覧いただきたいHP等をご紹介します。

*認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいについて
…もやいの組織概要や事業内容を詳しく知ることができます。
https://www.npomoyai.or.jp/

*『みんなのお悩み解決ハンドブック』認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい
…もやいが助成金を活用して、さまざまなお悩みごとについて各分野の専門家がわかりやすく解説したハンドブックを作成しました。下記URLページ内のリンク先からダウンロードも可能です。
https://www.npomoyai.or.jp/20210413/7279

*『貧困の形コロナで多様化 新宿共助』東京新聞 中村真暁記者
…「新宿ごはんプラス」の都庁前の活動を取材した記事。コロナ禍の現状、リアルな現場の声を知ることができます。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/91961
今回の大西さんのお話を通して、見えない貧困は実は身近にあるのだということ、そしてそのためにできることも実は身近にたくさんあるのだということに気づくことができました。まずは地域を「知る」ということも、地域に踏み込むはじめのいっぽになるかと思います。
2020年度最後のフミコムcafeとなりましたが、次年度も地域に踏み込むきっかけとなるようなさまざまなテーマで開催予定です。ぜひお気軽にご参加くださいね。