●山賀さんはどうして医療職になったのか?
学生時代部活に打ち込んでいたため当初スポーツトレーナーを目指していた山賀さん。
その後医学部を志すことにしましたが進学できず、何になりたいかを考え直したときに、家族が入院していたときに側で支えてくれていた看護師さんの存在と、人と接することが好きな性格もあって看護師を目指すことにしたそうです。
そうして看護学校へ進学し、学校で学ぶ看護はすごく患者さんに近く、生き様を肌で感じることができた。
ところが就職した急性期の病院では、コミュニケーションを取れた頃には退院してしまい、退院後どう生活しているのかが見えないことに葛藤を抱え、看護ってなんだろう?と考えるようになったそうです。
現在はコミュニティナースとしての活動を行いながら、平日は訪問介護や在宅領域での仕事に従事されています。
人生においてわずかな入院期間だけではなく、入院期間以外のヒストリーを共に歩んでいけることが在宅領域の医療職の魅力、と山賀さんは言います。
病院にはきちんと治療をするために守らなければならないルールがあるが、退院したあと自宅でそのルールを守らせることはできない。
一方で在宅領域では「本人が主体」になります。
本人がやりたいことを「どうできるか」を共に考えてサポートする、自分たちと一緒に行うことで羽ばたいていくところを見れるのは感慨深いし醍醐味だと優しい表情を浮かべられていたのが印象的でした。
●どうしてコミュニティナースに?
病院看護師に葛藤を抱えていた頃、看護師ではない道もあるかもしれないと、別の仕事に就いたこともあるという山賀さん。
ホテルのフロントや料理人のサポートなどを経験しましたが、後にコミュニティナースとしての活動に踏み出す大切な気づきをもたらしたと言います。
病院が対象とするのは「病気になった人」や「介護保険を受けられる人」など病気になった後の状態から接することばかりですが、ホテルの場合は「楽しみにやってくる」元気な状態の人でした。
関わり方はどちらも大きく言えばサービス業で「ホスピタリティ」であり、対象が元気なひとかそうじゃないか、ただそれだけだと気付いたそうです。
山賀さんにとっては相手に対しての配慮や、それぞれの食生活への留意など、どちらも同じような感覚で、健康だけどいずれ健康じゃなくなる人に対して何かできるのではないか、病院以外のところでも看護師ができるのかもしれない、との気付きがトリガーとなったとお話をされていました。
●コミュニティナースの活動とは
前提として、「コミュニティナース」は職業ではなく「概念」であると言います。
奈良県には「コミュニティ歯科衛生士」がいるように、どのような職種でもまちに関わりたい、お節介したいと思うひとが「コミュニティーナース的な役割」を担っていけると良い。
「名前」の存在は大きいかもしれないけれど根底にある「想い」は一緒だと思うので、ひとりでもそういう人が増えることを願っているそうです。
*山賀さんが取り組まれた具体的な活動をいくつかご紹介します*
〇渋谷ナース酒場
健康じゃない人に「健康」と言ってもアプローチできない、どうしたら「健康ではない」人にアプローチをできるのか。そもそも「健康じゃなさそうな人」とは?
そう考えたときに、ナース服に興味を持つ方、やお酒をたくさん飲む方、などを対象として挙げ、その対象の方と出会うためのハードルを下げて接点を作ることで、意図せず健康についての情報を得たり、気づいたら健康になる、ということも可能なのでは?という仮説をもったうえでの企画でした。
また看護師には横のつながりが足りないと感じていたため、どんな病院の看護師でも参加できる状態をつくることを意識し、きちんとしたヘルスプロモーションとしてのイベントにすることを意識していたそうです。
〇ペットボトル心肺蘇生(ファストエイドとの共同展開)
心肺蘇生の方法を自宅で手軽にペットボトルを使って学べることを普及する活動です。
※ちょっとやわらかめのペットボトルをキャップを閉めた状態で押すと、救命講習で使用する心肺蘇生の人形を代用できるのです!
心臓突然死は年間7万人(日200人)が亡くなっていて、その多くが自宅だそうです。
自宅で倒れたとき、家族は慌ててしまって救急車が来るまで何もできないことが多く、倒れた後1分何もしないと10%救命率が下がると言います。
身近な方が心肺蘇生の方法を知ることで救命率を上げることができる、そのことを楽しく伝えられないだろうか?とファストエイドとともに考案されました。
面白がって体験しながらも、実際に使うときに有効な心臓マッサージを自然と身に付けられる、ということを意識して実施されているそうです。
この活動を、横浜Fマリノス&神奈川県と共同で実施したのが「命つなぐアクション」です。
スポーツにおけるAEDや心臓突然死について啓発してきたチームとともに、イベント会場での啓発活動やハッシュタグでの拡散など、普及活動を展開されています。
〇ノーストーキョー
イベントでは接点を作れなかった、商店街を行き来する地域の方との接点を作る試みで、地元板橋のコミュニティカフェで店員としても働いています。
板橋だけでなく北区・豊島区などのノーストーキョーは面白い取り組みや活動があってもうまく発信できていなかったり、つながれていなかったりしている側面があることから、横断的に面白がれるように、と意識されているそうです。
ここに記載したこと以外にも、銭湯での救命講習の実施や、新橋の居酒屋へ実際に出向いてバニーガールの耳を付けてお客さんとお話をする取り組みや、イベント管理サービスを提供されている企業とともにコロナ禍において日常生活やイベント運営についてどう対応すればよいのかをラジオでトークされるなど、さまざまな取り組みについてお話をしてくださいました。
それぞれの活動のお話をされているとき、「人とのご縁によって活動ができている」「面白さの輪が広がっていく感覚」とお話しされていたのがとても印象的でした。
●山賀さんが大切にしている想い
コミュニティナースの講座に参加し、実際に地域に出てフィールドワークを経験したりするうちに、大きな目標を持つことも大事だけど、自分の興味関心がどこにあるのかをとことん突き詰めることが大切だと気付いたと言います。
原点(軸)を持った状態であればいろんなことに興味を持ったり失敗したとしても、立ち返ることができる。継続的にスパイラルアップして積み重なっていき、自分の原点である活動につながっていく、とお話されていました。
コミュニティナースとしても、「まちの人が、お節介する人がたまたま看護師資格を持っていた」くらいの立ち位置を意識されているそうです。
ただし待っているだけでは出会えないから、自分からいかに出会いに行くか、接点をつくるかを日々意識しているそうです。
出てくる話題すべてを看護師として聞くのではなく、そのひとの興味のある音楽や料理に山賀さん自身が興味があれば話に乗るし、医療の話が出てきたときは「看護師」として接する。
失敗も多いけれど「叶えたい未来」=「自分の軸」があるなかでの失敗なので絶対に何かしらの糧となる。だからこそいっぱい失敗して楽しんでください!何を学んで次に生かしていくか、ですよ!と笑顔でメッセージを伝えてくださいました。
●これから「つながり」づくりにどうチャレンジしていきたいか?
お弁当屋さんのおにぎりを自転車で配達し、その配達中をZoomで中継するという「てやんでぃーつ」やシルバーサロンでのLINE講座などの取組を例に出しつつ、大人が「本気でPLAYする」ことを大切に活動していきたいとお話されました。
PLAYには遊ぶ、だけでなく役割を持つ、という意味があるように、本気で遊びながら、遊んでいるうちに役割を持つようになり、ひいてはその人の生きがいになっていく。
押し付けではなく、自分から楽しめるところにどうしたら踏み込めるのか、を考えていきたいそうです。
そのために、今ある枠組みを考慮しつつも、すこしはみ出して新しい取り組みで地域やまちの人との接点をつくっていきたい。そこにコミュニティナースとして地域の人を巻き込んだり、面白がれる人たちとともに地域を盛り上げていけたら、と締めくくられました。
専門職と地域をつなぐコミュニティナースの取り組みに、チャットでも非常に活発な意見交換がされていました。
また、本日のお話に出てきたリンク先をこちらでご紹介します。
*命をつなぐアクションURL
https://www.f-marinos.com/3action/
*ペットボトル心肺蘇生普及動画
https://youtu.be/8BS3VD0XCJQ
*コミュニティナースカンパニー
https://community-nurse.jp/
今回もフミコム館内で2名の方がグラフィックレコーディングにまとめてくださいました!
館内に掲示中なので、ぜひ実際に模造紙に書かれたグラレコを見に来てくださいね。
次回は11/21(土)10:00~15:15開催
オンラインフミコムcafe拡大版!コロナ禍でのつながりを〇〇する 活動見本市
開催概要:
https://www.d-fumi.com/article/detail/1273
特設ページ:
https://peraichi.com/landing_pages/view/fumicom2020
今までのつながりかたを保つことが難しくなった中でも、工夫し模索して活動を続けてきたさまざまな団体に20分から30分ごとのコンテンツのなかででお話いただきます。
急速に広まったオンラインツールにより、つながりかたの選択肢が増えた今だからこそ、今までを見つめなおし、「これから」について一緒に考えてみませんか?
YoutubeでのLive配信を予定しておりますので、お気軽にご参加くださいね!