「人生100年時代」と言われる今、みなさんはどんな人生を想像されますか?
今回のフミコムcafeは、人生100年時代を生きるシニア世代の新しい働き方を提示しているゲストの方々をお招きし、「超高齢社会をテクノロジーでチャンスに変える!」をテーマにお話ししていただきました。
●まず一人目のゲストは檜山敦さん。
東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野で講師を務めておられます。檜山さんの研究領域は「gerontology(ジェロントロジー)」という、老年期における諸問題をあらゆる分野から総合的に研究する学問。檜山さんはこの老年期の諸問題に対して情報科学的アプローチによる解決を目指す研究に取り組んでいます。
この研究において檜山さんは、少数の若者で多くの高齢者を支えるという現代日本の図式には限界があり、そもそも高齢者の約7割を占める元気高齢者を、社会の活力としていかされていないことが超高齢社会の日本の根源的課題であるといいます。また、元気高齢者の中にはまだまだ社会とのつながりや活躍できる場を求めている方が多くいるとのこと。
高齢者=弱者ではなく、高齢者=活躍できる人材として捉えよう。この考え方にICT技術を取り入れて誕生したものが「GBER(ジーバー)」です。
GBERはGathering Brisk Elderly in the Region(地域の元気なシニアを集める)の略で、仕事やボランティア、地域イベント等の様々な地域活動と、地域の元気シニアがつながることを応援するマッチングサービスです。
GBERの使用方法はとてもわかりやすく、
①【Schedule】参加したい日
②【Location】参加したい場所
③【Interest】興味・関心のあるもの
の3つのいずれかの方法で検索することで、自分に合った地域活動を簡単に見つけることができるとのこと。
これまで地域活動に関心はあるけれど未経験の分野へ一歩踏み出せないと感じていた方や、情報が多すぎてどれを選択したらよいかわからないと感じていた方にも、活用しやすい仕組みではないでしょうか。
実際に千葉県柏市において2016年4月から実証実験的に運用されており、2020年3月までに延べ3856名が社会参加をしているとのこと。また新たに熊本県でもGBERの導入っが決まっており、柏市で利用している方々の声を参考にしながら、よりわかりやすい仕様に更新しているそうです。
熊本で導入されるきっかけに熊本地震があるとのこと。檜山さんは「GBERは災害時にはライフラインとしての情報インフラになりえるし、コミュニティ強化にもつながる」と話し、例えば震災時にこのGBERを活用することで、①ボランティアのスケジュール調整 ②救援物資を必要としている場所の発信 ③ボランティアのスキル調査 など様々な情報を共有することができるとのこと。
檜山さんはGBERを「社会参画の機会創造プラットフォーム」と仰っていましたが、普段からGBERのようなICTを通じてネットワークを広げることで、地域活動とのマッチングだけでなく地域との“つながり”も生み出すことができると感じます。そうしたつながりは、突然やってくる災害時において特にいかされるのではないかと思います。
一方現実的な課題として、シニア向けの仕事は発掘が必要、とのこと。シニアには「どんな仕事・地域活動があるのか分からない」という参加のハードルがあり、企業や団体には「どんなシニア人材がいるのかわからない」という募集のハードルがあるといいます。
檜山さんはそれぞれが見えていない部分(人材や求人ニーズ)の調査・発掘を行い、シニアには企業の実態を、企業にはシニアの実態をフィードバックすることで、それぞれのハードルを下げる「八の字型の循環」を生み出しているとのこと。
GBERのイチ押しポイントとして「『今日1日をデザインするためにどうするか』を一人一人が考えられるものであるところ。募集をかける人目線ではなくユーザー目線であることを心掛けている。」と檜山さんは言います。
この「ユーザー目線」であることが、シニア世代が自律的に参加できるコミュニティづくりに繋がっていると感じます。
●二人目のゲストは、西村英丈さん。
西村さんはOne HR(人事業界の有志団体)で共同代表を務めておられ、人事業界の目線から“今後GBERをどう活用していくか”についてお話しくださいました。
西村さんは約70ヶ国/地域で事業展開をするグローバル・カンパニーへ入社後、5年間アジア地域統括人事部長(シンガポール駐在)として新興国市場の人材マネジメントを推進してきました。
その原体験を経て日本へ帰国した西村さんが目の当たりにしたのは、
「社会を構成する組織と個人の関係性がサステナブル(持続可能なもの)になっていない」、
つまり定年退職後、組織・社会から切り離されてしまうという現実でした。
西村さんによると、実際に定年になった人の4割弱が「喪失感・寂しさを感じた」等ネガティブな変化が起きており、生きがいや存在意義を感じられなくなる人が多いとのこと。
また、西村さんは、日本の男性60歳から65歳の方のうち5割の方が就労したいと考えている一方で、7割の方が社会的な活動を行えていないことが課題であると言います。西村さんはこの現状の背景として、高齢者の雇用においてはブルーカラー的な案件しかなく、また地域の中にコミュニティはあるものの高齢者側に届いていないことがあると言います。こうした現状であるからこそGBERの機能を活用することで、やりがいのある仕事と志向性の遭った社会参画をバランスよく過ごしていくことにつながると西村さんは仰っていました。
そしてGBERにおける「就労」には「モザイク型就労」が取り入れられています。
これは、就労条件を「スキル」「時間」「場所」の3つに分け、それらを組み合わせることでバーチャルに一人分の労働力として提供する仕組みです。この仕組みにより、「自宅の近くで数時間だけ働きたい」方や「遠隔でも自分のスキルを活かして働きたい」など、高齢者にとって無理のない柔軟な働き方が実現できるそうです。
GBERのようなテクノロジーをいかすことで、「多様な選択肢から生き方を自由に『選ぶ』ことのできる社会が実現できる。そして、それはすべての人が自分らしく生きられることにつながっている」と西村さんは言います。
超高齢社会において問われることは、高齢者を「どう支えていくか」ではなく、高齢者と「どう協働していくか」。
そのためにはまず現状の課題を一人ひとりが自分事として捉えることが大切であり、西村さんは企業・組織側も社員の定年後の生活について考えていけるといいのではと仰っていました。
「モノをつくる社会から、生き方をつくる社会へ」。檜山さんと西村さんのこの言葉にあるように、人生100年時代の今をだれもが自分らしく暮らすことのできる社会であるために、さまざまな世代や職種・分野が手を取り合って協働していくことが大切であると感じます。まさに「超高齢社会をテクノロジーでチャンスに変える!」ことが、現代社会に求められていると気づくことができました。
今回、フミコムCafe初のZOOM開催となりましたが約55名の方々にご参加いただきました。オンラインならではの試みとしてチャット機能を活用しましたが、ゲストお二人が登壇中にたくさんの感想や質問などが寄せられていました。
参加者からの感想の中には、
「やりがい、生きがいを自分で検索できるのがいいですね」
「シニアの人材マッチングだけでなく、現在のように自粛等で仕事をできなくなった人材のマッチングにも使えるのではないかと思いました。」
という声のほか、
オンライン開催について、
「子供がいて、興味はあってもなかなか普段参加できないため、こういう機会も嬉しい」
「遠方からでも参加できて嬉しい」
という声をいただきました。
今後もオンラインならではの“つながり方”を皆様と一緒に考えていきたいと思います!
そして、今回もお二人の方がグラフィックレコーディングに取り組んでくださいました!
ありがとうございました!
新型コロナウィルス感染拡大防止のため、5月以降のフミコムcafeもオンライン配信での開催予定です。
次回は、5月27日(水)19:00~20:30
テーマは“「言えなかった」「知らなかった」 ハラスメントからあなたを守る!”です。ぜひご参加ください!
開催案内 https://www.d-fumi.com/article/detail/1173