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活動報告・発行広報物

【開催報告】第64回フミコムcafe オンライン 空き家を活用した居場所づくりの可能性

地域連携ステーション フミコム
  • 文京区全域
  • まちづくり・安全
  • 職業・暮らし
  • 町会・自治会
日時:2021年7月28日(水)19:00〜20:30
会場:オンラインにて開催
ゲスト:The Trading City研究会
    土橋 悟さん(都市デザイナー/(株)都市環境研究所 主任研究員 など)
    落合 正行さん(建築家/建築学者/日本大学理工学部まちづくり工学科 助教)
最大視聴者数:72名(*zoom参加者、YouTube LIVE配信視聴者の総数)
   
今回のフミコムcafeは「空き家を活用した居場所づくりの可能性」と題して、
The Trading City研究会の土橋さんと落合さんをゲストに迎え、お話を伺いました。

居場所づくりが必要な背景にはどのような課題があるのか。
また、地域で居場所をつくるにしても、ひとりの考えでつくれるものではなく、地域住民、行政、建築家など、さまざまな人との関わり、協力があってこそ、その場所がつくられるのだということをお話しを伺いながら、考える時間となりました。

お話しの前半は土橋さんから「なぜ居場所づくりが必要なのか」や「空き家・空きスペースの意義」についてお話しいただきました。そして後半は、落合さんから具体例として文京区社会福祉協議会(以下、文社協)とともに取り組んでくださった「氷川下つゆくさ荘」のプロジェクトについてお話しいただき、内容たっぷりの90分となりました。

まずは、前半の土橋さんのお話しです。
●土橋さんの取り組みについて
社会人になって初めて改装を担当したのは川崎駅の東口広場。そして、そこからベトナムのプロジェクトに携わるようになったという土橋さん。月の半分はベトナムに行き、ホーチミンやハノイなどの新都市開発のプロジェクトに携わっていたそうです。その後は、ロンドンの設計事務所でも勤務していたそう。
さまざまな国でまちづくりのプロジェクトに関わる傍らで、ご両親が定年退職後にお引っ越しをされたお家の設計もしたそうです。
今の都市環境研究所では、長崎駅の駅舎の設計や駅前広場の設計、また廃校になった学校を宿泊施設に変えるというプロジェクトにも関わっているとのこと。
●文京区で進める居場所づくりの取り組み
全国各地でご活躍の土橋さんですが、ここ文京区でも、文京区文社協とともに空き家を活用して居場所づくりを行っています。空き家には、耐震性の問題などもあるため、そこに対してどう対処していくかを建築家としてコンサルテーションしています。また、同時並行で千石三丁目にある「氷川下つゆくさ荘」という居場所を立ち上げるにあたってのプロジェクトも、文社協とともに進めてきていました。
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●なぜ居場所づくりが必要か
引きこもりや孤独死、ごみ屋敷、近隣トラブルなど、社会福祉協議会には日々様々な相談が寄せられています。でも、それらは、かなりこじれた状態で相談に来られるケースが多く、相談に来られた時には「さあ、どうしようか・・・」という状態のことが多いのが現状です。
そういったことを事前に察知して防ぐためのコミュニティの力が重要だと土橋さんは言います。
しかし、都市部では、独居でマンションに住む人が増加し、課題を抱えていても見えづらいのが現状です。こういった課題を解決するための方法として、交流や健康づくり、生活支援や見守りなど、さまざまな機能を持つ居場所づくりが必要になるのです。
●空き家・空きスペースの意義
文京区は不動産価値が高く、少しでも土地があると、ここでマンションを建てませんか?と不動産会社が言ってくるほどだそうです。しかし、そのような地域でも、空き家は存在します。
ただ、空き家は物件の大きさも、さまざまであったり、今後どうなるかわからないため、しばらくそのままにしておこうとされているものが多いそうです。
しかし、土橋さんは、都心の人の密度が高い場所に空き家があるのだから、有効活用していくことは今後必要になってくるのではないかと言います。
空き家・空きスペースは、アットホームな雰囲気が作りやすかったり、一から建てるわけではないので、多少、耐震改修が入ったとしても、初期費用を低減できるというメリットがあります。また、もともとその場所にあった建物を活用するため、地域コミュニティとの連携がしやすかったり、地域のために何かしたいと思っている方々が集まりやすい場になるとのことです。
ただ、一方で、空き家・空きスペースの活用の課題としては、法手続き上の課題や権利関係上の課題、コストマネジメント上の課題やスケジュール上の課題、地域との関係における課題、物理的な空間についての課題などが挙げられるとのことです。
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ここからの後半は、落合さんから、具体的な例として、千石三丁目にある「氷川下つゆくさ荘」の取り組みについてお話しいただきました。
●落合さんの取り組みついて
落合さんは、専門としては建築計画や建築設計、空間デザインだけれど、研究として、地域コミュニティの再生であったり、空き家を使って、地域を元気にするような取り組みをテーマに研究をしているそうです。
また、落合さんのご自宅の一階は普段設計事務所として使用しているけれど、休日には、街に開く「住み開き」をしているそう。ただ、今はコロナのこともあり、なかなかこういった活動はできていないそうです。その他、観光施設の再整備の設計支援であったり、都市の空き家の活用プロジェクトに携わっています。
●空き家活用の社会的背景
日本は人口減少の真っ只中で、今は人口が減っている状況です。そのような中で、人口が減少すると建築物(施設)が余るという状況にもなります。では建物を壊せばいいのではないかというお話しにもなりますが、解体するには、建てる時と同じくらいの費用がかかったり、環境悪化につながる可能性もあります。そういう風に考えると、空き家を活用するのは自然の流れであり、これからの時代、空き家活用が当たり前の時代になってくるのではないかと落合さんは言います。
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●空き家を活用した地域の居場所「氷川下つゆくさ荘」
建築家チームが参画したプロジェクト「氷川下つゆくさ荘」の計画プロセスを
①活用検討期②設計期③工事期④活用開始期の4段階に分けてお話しくださいました。

①活用検討期
まず、借主が文社協に打診したことによりプロジェクトが開始されました。
その後、準備会の開催ということで、文社協の呼びかけにより2回の準備会が開催されました。準備会には、町会、地域団体、民間企業、行政などが参加。
日頃のネットワークを活用し、居場所づくりをしていくうえで、さまざまな方たちとの関係性を構築していったことが、その後につながったと落合さんは言います。

②設計期
具体的な設計、計画に入っていくと、準備会に参加していた方たちが中心になって実行委員会を作り、活用内容の検討が行われました。
また、建築士などの専門家を加えた改修ワーキンググループが作られ、耐震補強を含めた改修計画が進められました。ただ、工事の範囲が広がると工事資金も上がり、関係者で頭を抱えたこともあったと言います。
ただ、そのような時は、地元の企業に資金投資という形でお金を出していただいたり、所有者にも建物補強の費用を負担していただいたり、あえて地元の工務店に依頼して、経費削減をお願いし、多方面に協力を仰いだそうです。文社協を中心に組まれていた最初の関係構築がハードルを乗り越えるためにとても役に立ったし、このメンバーが揃わないとこの後の居場所づくりに繋がらなかったとお話ししてくださいました。

③工事期
これで順調にいくだろうと思っていたプロジェクトメンバーですが、そう簡単には上手くいかなかったそうです。空き家は蓋を開けてみないと何があるかわからない。着工したら、「思っていたところに柱がありません」「中がすごい老朽化しています」という現場からの声が挙げられたそうです。また躯体改修に伴い、上階の住民とオーナーとの間でトラブルが発生したそう。ただ、そのような時は、改修ワーキンググループを中心に誰がどのように働きかけるかを相談し、解決策を考えたといいます。こういった連絡体制が非常に重要で、計画初動期から、関係を構築していったひとつの成果だと感じたとお話しされていました。

④活用開始期
現在の活用内容としては、子ども食堂や高齢者向けの運動プログラム、町内会の季節のイベント等を実施しています。運営は、実行委員会のメンバーが中心になって行っているそうです。
運営資金は、現在は借主さんが出資・寄付という形で一部運営資金を補填している形になっていますが、今後は居場所の利益を出して、そこを運営資金に充てていくという目標を立てているそうです。

コロナの影響を受けながらも、こうして運営ができているのは、さまざまな方たちの協力やチームワークがあってこそだと落合さんはお話しくださいました。
●参加者からの質問
講座の後半は、参加者から寄せられた質問や意見に答えていただきました。
「氷川下つゆくさ荘」のプロジェクトに、文社協の職員として携わっていた地域福祉コーディネーターの井上も参加して、質問やお話しを伺いました。
その一部をご紹介します。

・居場所づくりに参画を希望された方の中で、取り組みを進めていく上で、ハードルになってしまうような方(意見や考えが合わない方)が現れたときはどうされていましたか?
⇒(落合さん)そういう方も排除せず、必ず話を聞くようにしていた。
⇒(井上)会議に出席する際なども、事前に個別でお話しをして、会議でどのようなことをお話しするかや今の想いを聞いて会議に備えていた。

・空き家を活用したプロジェクトを行う際、企画から完成まで、どのくらいの期間がかかりますか?
⇒(土橋さん)建物の状態や、何をやるか、メンバーがどれくらいいるかにもよるが、最短でも半年くらいは議論しないと煮詰まらないかなと思う。
「氷川つゆくさ荘」はいろいろと紆余曲折もあって、計画も止まったりしたので、約3年くらいかかっている。

・色んな過程を経て居場所が立ち上がった後、色々な人が参加できるようにどのように周知していますか?
⇒(井上)広報の仕方はいろいろあるけど、いちばん大きいのは口コミ。町会の掲示板にチラシを貼っておくのが大きかった。そして、実際にその場に行ったか方たちが、口コミで広げてくれたことが大きい。つゆくさ荘では、跡見女子大学の学生さんが関わってくださっているので、SNSなどでも情報発信をしてくれている。

本編は以上となります。
お話しを伺い、地域住民、行政、建築家、学生など、それぞれの分野の方たちの立場の視点が加わることで、より多くの人が過ごしやすい居場所がつくられるのだということ感じました。
●本日のお話に出てきた団体のリンク先をご紹介します。
*The Trading City研究会:http://thetradingcity.jp/
*トヨタ財団の国内助成プログラム「しらべる助成」の研究報告
 『空き家を活用した居場所づくりの研究』(ページ内の下部にあります)
https://www.bunsyakyo.or.jp/publication/coordinator/
●ご視聴いただいたみなさまからの感想
イベント終了後、ご視聴いただいた多くの方にアンケートにお答えいただきましたので、
一部ご紹介します。

・はじめの段階から異分野の人を巻き込むことが、後々何かあった時にやりとりがスムーズだとい
 うことが発見でした。
・居場所づくりには、日常からの関係性が本当に重要!
・地域の居場所を伝えるには、看板の重要性、町の掲示板、口コミが大事であることを学んだ。

次回のフミコムcafeは2021年9月22日(水)
「ひきこもっていても仕事ができる・つながれる」をテーマに開催予定です。
オンラインにて配信予定ですので、ぜひご参加ください!
https://www.d-fumi.com/article/detail/1477

その他、フミコムではさまざまな講座を開催予定です。フミコムHPやフミコムFacebook等でお知らせしておりますので、ぜひご覧ください。
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